[speech position="左" name="ヒカル" content="こんにちは!サブカル好きの一級建築士ヒカルによる趣味領域のブログ第三弾です!"]
今回はマンガに登場する建築を「もうやめてあげて!もうHPはゼロよ!」というとこまで解剖考察してみよう。
マサルさんを中心にしたセクシーコマンドー部の壮絶な日常生活
マンガに登場する建築に関して、長年気にかけてきた謎が一つある。今回はその謎を紐解いてみようと思う。
『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』というマンガをご存知だろうか。
主人公はわかめ高校2年生の花中島マサル。彼が部長を務める謎の格闘技部「セクシーコマンドー」部の部員たちが全く日常的じゃない日常を謳歌しながら、ちょっとおかしな部活が展開されていく伝説的ギャグマンガである。
どれくらい日常じゃない日常かというと、マサルさんの肩についている謎の輪っかを外すと髪が短くなったり、「溢れ出す煮汁」というズボンのチャックを下げながらポーズをとる技を繰り出したり、弁当箱あけたら丸ごと沢庵が入っていて嬉しそうに食べたり。
意味不明感がスゴく飛びぬけていて、意味不明に笑ってしまう。それが『すごいよ!!マサルさん』である。
「これはほんの遊び心だから(byマサル)」では済まない自宅
そんな非日常な作中で描かれた主人公マサルさんの自宅がこれである。
(『すごいよ!!マサルさん』3巻(集英社)より引用)
布被っとるーーーー!??
なぜ建築に布を被せる必要があるのだろう? どう考えても濡れるじゃないか。服的なオシャレスタンス? いや、建築に服はいらないよな……
なぜこの世界の建築は説明もなしに、当たり前のように布を被っているんだろう。全くもって謎だ。
(『すごいよ!!マサルさん』3巻(集英社)より引用)
一旦ここで、どすこい喫茶ジュテームでコーヒーを飲むかのように落ち着いて、マサルさんの家の布による建築的特性を真剣に考察してみよう。
【主要外装の耐久性UP】
どんな建物でも外装があり、紫外線や風雨にさらされることで劣化からは逃れられない。そこで、この素敵布を羽織らせることで外装の劣化を防ぎ、大切な建物を優しく守る効果があるのかもしれない。
【布設計による光コントロール】
マサルさんの家の布は窓部分を切り抜かれて設計され、多くの採光を確保しようとしているように推測できるが、きっと他の窓部分は布が被っているはずである。もしそうであれば、建物の建設後であっても、布側での開口の具合や布の厚さによって、入る光の量を調整できる新しい環境システムを世に問いかけているのやもしれぬ。
(設計:ル・コルビジェ/筆者撮影)
もしかすると、日射抑制や光のコントロールという点では、建築界の名匠ル・コルビジェがインドでの建築設計で踏襲していたブリーズソレイユのオマージュとして建築の歴史に敬意を表しているのかも。
※ブリーズソレイユ:建築化された日除け
【空気層による断熱性能アップ】
いや、もしかしたら外装の外側に布があることで空気層ができ、建物の断熱性能の向上を狙っているのではないか……?(もちろん布の性能値にもよるが)
さらには、実はマサルさんの家が黒い外装で、かつ築年数が古ければ、白い布を優しく纏うだけで熱吸収を抑え、断熱性能の向上に大きく寄与することを、実験的に世に提言しようとしている可能性も。
【フレキシブルな建築外観】
意匠的な視点からすると、テントのような布による構築物とは趣が異なる柔らかな建物の外観や風で揺らめく様子は、新たな景観形成の可能性を模索しているようにも思える。
また、外観を変える改修工事は工事費が掛かるが、気軽に自宅のお色直しをする目的で、劣化時期と合わせて布を着替えるという楽しみ方も、ある種のメタボリズムとして建築業界に再びムーブメントを巻き起こそうという気配すら感じられる。
このように、いざ真剣に新たな発想や価値観を軸に見つめてみると、マサルさんの家は先進的な建築の姿にしか見えなくなってきた。
マンガが連載されていたのは1995年だったが、もしかしたら当時は時代が追いついていなかっただけで、超先進的な建築実験だったのではないだろうか。
そこで、試しに現代の最先端を走る建築をリサーチしてみれば、なんと「これってマサルさんの建築じゃないか!?」と思う布建築が次々とヒットしてしまう結果に。ようやく時代がマサルさんに追いついてきた、ということなのだろうか。
これには、「すごいよ!!マサルさん!」と私もテンションが上がってしょうがないので、最先端の事例とともに、さらにマサルさんの建築がいかにすごいのかを探っていきたいと思う。
実はマサルさんの建築センスは時代の先を行き過ぎていた?
ここからは、私の独断と偏見で選んだ最先端の布建築の事例を挙げて解説すると共に、各作品の特性を抽出し、マサルさんの家をアップデートした姿を考えてみたい。
現代において注目される3つの先進的な布建築を見ていこう!
①【Weaving Carbon Fiber Pavilion】by 東京大学TADS
(設計:東京大学TADS team/引用元:ROOMIE )
【作品の特徴】
・カーボンファイバーと布と結束バンドだけで作られている。
・夜は行燈のように目印となり、優しい光を発する。
まさにマサルさんの家のような、布の特性を活かした形状や柔らかい雰囲気!!
こちらの作品は、カーボンファイバーという飛行機等にも使用される軽くて強固な素材を骨格のメインに使った、布で緩やかに覆った空間の建築作品である。
建築でもありながら、夜には照明オブジェやランドマークのように姿を変える様は非常に魅力的だ。
マンガ内では他のシーンを描かれてはいないが、マサルさんの家も風が強めの日で夜になったら、きっとこんな感じで揺らめくような造形性やムーディーな雰囲気を醸し出すポテンシャルを持っていることが分かるだろう。
現代の建築シーンも見据えたマサルさんの家のその突き抜けたポテンシャルには、恐れおののくのみだ。
②【モバイル茶室浮庵】by 隈研吾
(設計:隈研吾/引用元:CASA BRUTUS )
【作品の特徴】
・ヘリウムガス入りの風船に世界最軽量と言われるスーパーオーガンザという布をかけ、空間を形成
・土台と風船を透明なワイヤーでつなぎ風船を安定させる先駆的な試み
・畳むとコンパクトに持ち運びできる
これは!!!まさに!!!マサルさんの家の数歩先を行く布建築ではないか?
そう、今をときめく隈研吾氏も布建築の可能性を模索していたようである。言ってしまえば、ヘリウムガスを構造体として建築空間を作るという新しい可能性の建築だ。布も世界最軽量の素材を選んでいるからこそ実現しており、新しい試みと言えそうである。
やはりマサルさんも新しい建築の可能性を自宅で突き詰めていたのだろう。布建築での柔らかな姿やフレキシブルさ、布による光のコントロールがすでに体現されていたのではないだろうか。
しかし、こうなるとマサルさんの家が時代に追い越され、先駆性で負けてしまった感じがして悔しいので、隈さんの建築のように新しい試みを導入し、さらにアップデートした姿を考えたくなってきた。
ということで、「マサルさんの家 x 浮庵」の姿がこちら!
どうだろうか!? これでまたマサルさんの家が時代の最先端を走ることになるのかもしれない。
アップデートしたマサルさんの家は、布という素材特性を利用して建築構造の概念まで突破する姿にまで行きついてしまったのだ。
③【小松精練ファブリックラボラトリー fa-bo】by 隈研吾
(設計:隈研吾/引用元:GOOD DESIGN AWARD )
【作品の特徴】
・カーボンファイバーの糸群が建物の揺れを止める新たな形の耐震
・見た目は軽やかだけれどしっかりと建築を守るという相反する印象を成立させつつ、安全性を向上
マサルさん、やはりあなたは巨匠の域で新たな建築の可能性を提言していたんだね!
見てわかるように、隈研吾さんの布(糸)建築は実際の規模でも実現しているのである。
カーボンファイバーの連なりにより、布のような面に覆われているようにも見えるこの建築。カーボンファイバーを使うことで耐震性能の向上に寄与するという先進的な技術が応用されているのだ。
悔しいことに、こんな現代技術を結集させた新たな耐震性能なんてところは、マサルさんの家から読み取れない。残念ながら、ここでは現代の布建築に遅れをとってしまったようだ。
またまた悔しいので、この最新技術を用いたバージョンにマサルさんの家をアップデートしてみよう!
どうだろうか? なんせ、布を外して、カーボンファイバーでテンションを掛けると出来るお色直し改修なので簡単。これも布建築のフレキシビリティ溢れるメリットである。
まとめ
長年気にかけ続けていた、『すごいよ!!マサルさん』のマサルさんの家を建築的に考察した結果、その先駆性には驚かされ続けてしまった。
マサルさんの家は現代にも通じる名建築であったことが、本考察によって明らかになったと思われる。
しかし……ここに来てはっきりと言っておこう。マサルさんの家はオシャレではない!!!
とはいえ、建築操作・言語は同じなので、シュールさとオシャレさは紙一重と言えるのかもしれない。
ちなみに、本編では扱わなかったが、マンガに登場する「セクシーコマンド―の大会会場」も大掛かりに布が被さった建築である。
設備で名建築を読み解く連載でも紹介した、代々木体育館の東京オリンピックに向けた改修風景にも布建築みがあり、ここでもマサルさんの家イズムを感じてしまって、またまたエモくなってしまった。
また、布建築を試みる傾向がある隈さん設計の新国立競技場は将来、セクシーコマンドーの大会会場のようなリアル布建築になる可能性も!?
「マサルさん家イズム」が全世界に浸透する日を心待ちにしながら、これからもマサルさんの家に思いを馳せ続けようと思う。
今回も熱量コメコメで書かせてもらってクタクタです。
ボスケテ!
※ボスケテの意味が分からない方は今すぐ漫画をチェック!!
意匠設計部統括/一級建築士。東北大学大学院都市・建築学専攻修士課程修了後、(株)久米設計を経て、一級建築士事務所NoMaDoSを共同設立、取締役に就任。国内・海外の宿泊施設や商業施設、教育施設など多岐に渡るプロジェクトの担当経験を活かし、意匠設計に従事する。2019年4月より東北事務所管理建築士を務める。
▶︎前回の連載記事はこちら
・なぜ『化物語』の建築はエモいのか? 一級建築士が語るポイント3選
・なぜクロノ・トリガーの世界はワクワクするの? 一級建築士が都市・建築を分析してみた
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