[speech position="左" name="ヒカル" content="こんにちは、一級建築士のヒカルです。
僕はアニメや漫画などのサブカルチャーが好きなのですが、その中でも職業上どうしても気になってしまうのが、作品内の「建築」。
気になると場面を戻して、静止状態で見入ってしまう癖があるほど。
今回は、アニメ『化物語』のヒロイン、”戦場ヶ原ひたぎ”の自宅について、3つのエモい建築ポイントを掘り下げていこうと思う。"]
建築士から見た『化物語』
ハイセンスな色調・アニメの世界感設計
西尾維新原作の小説からアニメでも「物語シリーズ」として展開されたシリーズ初作品の『化物語』。物語の内容を超要約すると、
突然吸血鬼になってからの人生転機
お人好し主人公の徹底的な人助け
モテモテストーリー
というところだろうか。
まずアニメーション制作が「シャフト」なので、アニメーションクオリティが高いのはもちろんのこと、作品の中に登場する架空の建物や公園、実在する名作建築のテイストやチョイスに建築的センスを感じる。
また、場面転換の際に使用される赤駒・黒駒も含めて、アニメ全体の色調を暗めにしたり、ビビッドまで上げてしまうなど、背景などの一要素である建物の色彩設計にも目が引かれてしまう作品。
では、さらに詳しく建築的にエモいポイントを見ていこう。
建築的にエモいポイント1:外観編
未完の鉄骨フレームと味のある木造アパートがたまらん
戦場ヶ原ひたぎ(以下ガハラさん)の自宅場面でまず気になるのは、外観。
目を引くのは奥にある建設途中そうな鉄骨の構造体の塊だが、もちろん住んでいるのは手前の木造アパート。途中段階の鉄骨躯体を細かく見ていくと、柱から取り出している小さな金物部材やアングルなど、建築的にウソじゃなさそうなくらい緻密に表現している。
一方で、更に奥に見える鉄骨部材たちは構造として効かなさそうなくらい細い。
しかし、アニメ内の建築表現として、奥の鉄骨部材たちを極端に細く表現することで、1シーンの絵として綺麗にまとまっていると思う。
木造アパート部分も、現代では木密地域を歩いていると見れるかどうかレベルの昔ながらの木板貼りの外壁で、渋い。
ガハラ家は事情があり裕福な家ではないのだが、シーンに表れている施工途中の鉄骨フレームやブロック塀、渋い木造アパートなどにより、あり得ない程安そうなところに住んでいる状況を演出しつつ、シーン全体で廃墟のような建築ビジュアルを作っているところが、建築好きとしてはエモいポイントをつつかれる。
建築的にエモいポイント2:内観編
木造の詳細表現と不思議な「入れ子構造」がたまらん
吹抜けの屋内階段からガハラハウスに入る1シーン。屋内なのに外壁と同じ下見板張りの壁があり、この壁で囲まれている画面左側のところがガハラハウス(部屋)となっている。
このシーンからは、大きく二つ、建築好きが気になるポイントがある。
まずは、手前に見える中途半端な柱。木造の建築物の現場ではよく見る継手で柱を繋ぐ、「ほぞ」が描かれている。建築専門でない人でも、普通の家では「ほぞ」が出るはずがないことは感覚で分かると思うので、より一層「完成してない家感」が出ているポイントになっている。
それから、外観シーンでは表現しきれていなかった「下見板張り」の外壁。木板を横に長く使い、羽重ねにして、段々の壁となるのが下見板張りの壁である。シーンの中でも木板の上下の重なりをしっかり陰影表現して細部を再現している。(アニメーターさん、お疲れ様です。。。)
また、大きい廊下空間にまた別の小さな空間(ガハラハウス)が入っている不思議な空間構成。これは「入れ子構造」と言われるちょっと変わった建築手法で、この作り方をアニメ中でするのはニクい。
建築学生は大学時代に設計課題をどんどん熟していくが、大体同期の誰かはこの「入れ子構造」をやっていたものだ。
なぜ「入れ子構造」の構成で設計課題を提案する人が多かったのか?と今考えると、「一味違う空間構成で面白くカッコいい」それにつきるだろう。
※僕個人としては、家の中でテント張ってるような非日常感のワクワクを味わえる「入れ子構造」に単純なワクワク感を感じていた。
建築的にエモいポイント3:内観編
勝手に建築史からの引用文脈が感じられてたまらん
最後のエモいポイントはガハラ家室内を吹抜け廊下から見たシーン。そもそも玄関ドアもないんか……という衝撃的な作り。
このシーンは扉の黄色、奥の壁紙(新聞紙)の赤や青のビビットカラーと白い障子のグリッドが印象的かと思う。
建築を勉強してきた自分からすると、勝手かもしれないが、海外の芸術・建築グループ「デ・スティル」に所属していたピエト・モンドリアンのコンポジションという作品が思い浮かんでしまう。似てないかな?
さらに、室内の壁紙が新聞紙になっていて、裕福じゃない度合いを強めているのだが、全体の廃墟感と新聞紙という要素から、過去にあった脱構築主義の建築ムーブメントを勝手に思い出す。(私だけかもしれないが)
ここらへんの建築運動は触れ始めると止まらなくなるので、今回は抑えておくが、ただ一点だけ、あくまで建築意匠としては、室内の壁紙を英字新聞にしてくれると、さらに空間のカッコよさが出たのかも……
と、このように建築士の目線から見ると、『化物語』の建築は、建築文脈をある程度知っている人がビジュアル構成をしているように思えてならないのだ。
まとめ
3つのエモいポイント、理解いただけただろうか?
1つでも共感出来たところがあれば、あなたも建築文脈にハマりこむ素養があるか、もしくは僕と同じサブカル好き建築士では?
二次元と三次元の違いはあるものの、サブカルコンテンツ内の建築描写にも作り手の思想や詳細が描かれていて、ストーリーとは別に心を惹きつける熱量があり、同じクリエイティブな職能の建築士としては昂ってしまう。
しかし、物語シリーズの建築の造形・色調センスには本業の建築士も見習うべきところも多いのでは……アニメ建築、末恐ろしい。
意匠設計部統括/一級建築士。東北大学大学院都市・建築学専攻修士課程修了後、(株)久米設計を経て、一級建築士事務所NoMaDoSを共同設立、取締役に就任。国内・海外の宿泊施設や商業施設、教育施設など多岐に渡るプロジェクトの担当経験を活かし、意匠設計に従事する。2019年4月より東北事務所管理建築士を務める。